低圧設備の耐雷対策について SPDや耐雷トランスの設置方法について解説します

技術情報

低圧設備の耐雷対策

雷サージ対策

雷サージ対策方法

雷サージは直撃雷サージと誘導雷サージに分けられます。直撃雷サージとは建造物等に直接雷撃するサージをいい、誘導雷サージとは雷撃点周辺の電磁界が急変することによって、配電線等が誘導を受けて発生するサージをいいます。
直撃雷サージのエネルギーは非常に大きく、SPD(Surge protective device:サージ防護デバイス)だけで全てのエネルギーを処理することはできません。よって、直撃雷を受けた建物内の機器を安全に保護するためには、建物全体に耐雷対策を施しサージエネルギーの多くを大地へ流した上で、残りの直撃雷サージ分流成分および雷撃によって発生した誘導雷サージをSPDや耐雷トランスで処理する必要があります。
以下に、雷サージの対策手法として、①SPDによる対策、②耐雷トランスによる対策について示します。

①SPDとは

雷の誘導や回路の故障等によって一定以上の大きな電圧が生じた場合、これらの過電圧を有効に大地に放電し、電気施設の絶縁を保護すると共に、放電現象が実質的に終了した後も引き続いて電力系統から供給され、SPDを流れる商用電流を短時間のうちに遮断して、系統の正常な状態を乱す事なく現状に自復する機能(続流遮断機能)をもった装置です。
続流遮断機能を持たせるためSPDが動作した時、SPDの両端子には流れた電流に応じた制限電圧が発生します。そのため、この制限電圧を保護しようとする機器の耐電圧より低く選定することが必要です。
SPDの動作を簡単に説明すると、図8の様になり、使用電圧より少し高い位置に動作開始電圧(V1mA)があり、この電圧を越えたサージ部分を大地に流す働きをし、この時電流の大きさに応じて制限電圧が発生します。SPDは、雷サージを流す働きを持つので、流す事のできる最大電流(放電耐量)と、通常に流れた時の制限電圧が性能チェックポイントになります。AC200V回路で使用するSPDに2500Aの雷サージを流した時の制限電圧を、図9に示します。

図8 SPDの動作
図8 SPDの動作
図9 SPDの制限電圧
図9 SPDの制限電圧

②耐雷トランスとは

絶縁トランスを主体とし、これにSPD及びコンデンサを付加し、雷サージが侵入した場合、内部に組み込まれたSPDでの抑制、1次側と2次側の高絶縁化、およびシールドにより、雷サージの流れを完全に遮断できる様にした装置です。
SPDの様に制限電圧が発生する事も無く、1次側から侵入した雷サージを、2次側では、1/1000以下に減衰させる事ができ、SPDに比べ、大きな効果が得られます。
当社製の耐雷トランス〔商品名:サージシェルタ〕の動作を説明すると、図10の様になり、1次側からサージが侵入してくると、1次側に取り付けられているSPDが前述の動作をし、サージ成分を大地に流します。この時、電流の大きさに応じた制限電圧が発生しますが、この制限電圧は3層シールドにより大きく減衰され、2次側には1/1000の値となります。2次側の線間にはコンデンサが取り付けられており、ノイズも吸収する機能を持っています。
コンピュータやマイコン等、LSI、ICを使用した製品は、特に耐電圧が低い機器であるため、他の機器より壊れやすく、SPDでは無く、耐雷トランスにより高絶縁化し、雷サージの侵入を阻止する事により、被害を確実に防止する事ができます。
サージシェルタを用いると、1次、2次間の絶縁が30kVと高く、この部分の絶縁により、この先に雷サージが流れず、従って機器にまで侵入しないため、機器が壊れるのを防ぎます。また、1次側から2次側への移行電圧を、1/1000以下に減衰させますので、30kVが侵入してきても、2次側には30Vとなり、SPDで保護しきれない装置の保護が可能です。

図10 耐雷トランスの動作
図10 耐雷トランスの動作

SPD、耐雷トランスの設置箇所

雷サージのエネルギーは様々であり、高圧側、低圧側のSPD1ヶ所で保護する事は困難です。SPD、耐雷トランスを多段に取り付ける事により、雷サージエネルギーと過電圧とを逐次減少させて行き、使用している電圧に対応した絶縁レベル以下にまで減少させ、機器被害を生じさせない様にします。できれば更にノイズレベルにまで減少させる事が望まれます。
ここで、使用する各電圧に対応したSPD及び耐雷トランスを選定することが重要になり、選定を間違うと効果が無く、雷サージにより機器やSPD等が壊れるおそれがあります。
低圧機器の雷サージ耐電圧が規格で決められているものを表1に示します。国内では、規格で定められているのは少ない状況にあります。この雷サージ耐電圧が不明の場合は、製造メーカに確認する事になりますが、AC耐電圧が判れば、雷インパルス耐電圧は、一般にはその値の2倍以上あるというおよその推定ができます。
高圧6kV配電線の引込柱から、1次、2次までの間の配電用避雷器取り付けを図11、分電盤から保護する機器までの取り付けを図12に示します。

図11 1次、2次までの間の配電用避雷器の取り付け
図11 1次、2次までの間の配電用避雷器の取り付け
図12 分電盤から保護する機器までのSPD取り付け
図12 分電盤から保護する機器までのSPD取り付け

表1 国内における各種電気製品の雷サージ試験規格

機器名 規格名称 試験方法 規格値
波形 電圧 回数
配線用遮断器

(JIS C 8201-2-1:2011)

漏電遮断機

(JIS C 8201-2-2:2011)

付属書1

JIS C 60364対応型

1.2/50㎲ 0.33〜12kV

(9ランク)

1秒間隔

正負各5回

定格インパルス耐電圧において放電破壊が無いこと
付属書2

在来電気設備対応型

1.2/50㎲ 0.33〜12kV

(9ランク)

1秒間隔

正負各5回

定格インパルス耐電圧の値を宣言した場合放電破壊が無いこと
1.2/50㎲ 5.0kV 1秒間隔

正負各3回

定格インパルス耐電圧の値を宣言しない場合絶縁破壊またはフラッシオーバーが無いこと
電力機器 JEC-210 1.2/50㎲ 3〜7kV 1分間隔

正負各3回(100〜20Ω接続)

異常が無いこと
ガス燃焼機器 JIS S 2093:2019 1.2/50㎲ 電源線間 5kV

電源−ケース間 10kV

正負各3回(100Ω接続) 使用上支障の無いこと
電力量計(単独計器) JIS C 1211-1:2009 1.2/50㎲ 6kV 各素子1回(+極性のみ) 異常が無いこと
電力量計(変成器付計器) JIS C 1216-1:2009 1.2/50㎲ 5.0kV及び6kV 各素子1回(+極性のみ) 異常が無いこと
配線器具 JIS C 8300:2019 1.2/50㎲ 6kV 正負各1回(+極性のみ) 異常が無いこと
オーディオビデオ機器 JIS C 6065:2007 1㎋のコンデンサに10㎸充電 毎分12回の割合で50回 アンテナと電源間の絶縁が低下しないこと
太陽電池アレイ通則 JIS C 8951:2010 1.2/50㎲ 4500V 正負各3回

出力端子一括と大地間

30V〜750Vまでのパネルに適用試験に耐えること
小出力太陽光発電用PC JIS C 8980:2020 1.2/50㎲ 5.0kV 正負各3回

主回路一括対地間

定格出力:10W以上、20kW未満異常が無いこと

SPD、耐雷トランスの設置方法

①SPD

図13aの様に電源線、信号線にそれぞれSPDを取り付け、単独に接地を取った場合、AC100Vから、1000Aの雷サージが侵入したとします。SPDが動作し、電源線から大地に雷サージを流しますが、SPDに1000A流れた時に発生する制限電圧450Vと、接地抵抗30Ωに流れた時の電圧30kV(30Ω×1000A)の合計30.45kVが、信号回路及びケース間に加わります。この電圧では、信号回路及びケース間の絶縁は破壊され、基板上を雷サージが放電しケース、接地線、又は信号回路から信号線へと雷サージが流れるため機器は破損します。

図13a
図13a

図13bの様に、各接地線を1点接地とした場合、同じくAC100V電源から1000Aの雷サージが侵入したとします。SPDが動作し、電源線から大地に雷サージを流します。

図13b
図13b

このようにすると機器は30kVの高電位になりますが、SPDに1000A流れた時に発生する電圧450Vのみが、信号回路及びケース間に加わる事になり、この程度の電圧では充分絶縁を維持できますので、基板上を雷サージが放電し接地線、信号線へと雷サージが流れる事無く、機器は保護ができる様になります。
この様に、SPDによる同電位化が図れる様に取り付けます。連接1 点接地にする事により接地抵抗は多少高くても(100Ω以下)効果があります。

②耐雷トランス(サージシェルタ)

図14の様にシステム(機器)のケースと電源配線の金属シールド及びサージシェルタの出力巻線をシールドしているEs接地を接続する事により、システム全体を金属体で包んだ様な極小容積の静電シールドの空間を構成し、接地の位置をシステムの設置位置とします。(これをサージシェルタの局部同電位化による保護と称しています)
この様にすれば、この局部同電位化された極小容積の内部の電源線、信号線及び接地線を通じて侵入する雷サージを遮断する事ができ、内部のシステムは雷サージの影響から守られる事になります。
サージシェルタは、接地線から侵入し、電源側または負荷側に抜けていこうとする雷サージに対しても、シールド板3枚構造により遮断できます。

図14
図14

SPDの種類と選定方法

①SPDの種類

電源、信号の種類に応じて、多数のSPDがあります。電源用は現在、主成分の酸化亜鉛(ZnO)に複数の金属酸化物を添加し、高温で焼結したセラミックスが主流になっています。それまで使用されていた炭化ケイ素(SiC)を主成分とした焼結体に比べ、雷サージ処理能力が大きく、続流が流れません。また、任意の動作開始電圧のものが製作できる、大きな雷サージが流れた時の制限電圧が低い、漏れ電流が極めて小さい等の多くの特長を持っています。
信号用は電源用と違い、信号回路や機器は一般に耐電圧が低いため、回路に対して直列に取り付けるタイプが主流となっています。信号用は、通常、複数のサージ対策部品と抵抗、インダクタンスが組み合わされた構造になっており、SPDを信号線に取り付ける時は、SPDに信号を通す様に直列に接続されるため、線路抵抗にこのSPD内の抵抗をプラスする必要がある点と、負荷電流の制約を受けます。SPD内の抵抗と、負荷電流(定格電流)は、SPDカタログに記載されています。○○信号用という、その信号回路用のものを使用すれば、この確認が終了しているので注意する必要はありません。
下記の様なSPDの種類があります。

  1. 電源保護用(AC、DC電源)
  2. 信号回線保護用
  3. 電話回線保護用(アナログ、ISDN回線)
  4. 通信回線
  5. CATV保護用
  6. ITV保護用
  7. ネットワーク保護用

②選定方法

SPDの種類の特定

前記調査後、カタログより機種を選定します。選定する場合の重要な項目は下記の通りです。

①1000A時の制限電圧を調べ、この電圧が保護する機器の雷サージ耐電圧以下であるものを選定します。
この1000Aの根拠として、低圧配電線に発生した雷サージ電流の、公表された観測結果が無いため、9電力会社の6.6kV実系統に於ける配電用避雷器の放電電流の調査結果(財団法人電力中央研究所発行、配電線耐雷設計ガイドブック)を参考にしました。この中に1000A以下が約95%との報告より、低圧配電線に対しても同程度あるとして1000Aを誘導雷レベルの値として選定し、この電流がSPDに流れた時の制限電圧を1つの判定基準としました。
例えば、AC100V電源保護用のSPD(音羽製品としてGL-L1F)の1000A時の制限電圧は、490V以下、DC24V信号回路用SPDの1000A時の制限電圧は、40V以下です。②保護する機器に侵入してくる、雷サージの大きさを想定し、至近雷を含む放電耐量値を選定します。
〔放電耐量:8/20μs波形の雷インパルス電流を5分間隔2回流した時、動作開始電圧の変化率が±10%以内となる最大電流値〕各設備環境毎に推奨される放電耐量値の大きさは下記の通りです。(過去の実績より、放電耐量値を選定)

  1. 屋外から、架空・埋設で引き込まれた線路に直接接続された機器(電源回路・信号回路・電話線等の区別は無い)10kA(8/20μs)
  2. 水処理設備に取り付けられた機器10kA(8/20μs)
  3. 避雷針の避雷導体として使用されている鉄骨に平行して配線された機器5kA(8/20μs)
  4. 外線に接続されていない機器で建物内配線されているもの(インターホン、放送)2kA(8/20μs)

耐雷トランスの種類と選定方法

①種類

AC電源用として、各種のものがあります。雷サージとノイズ両方に効果のあるものが主流ですが、ノイズ減衰を主目的として作られているもの(ノイズ対策用)もあり、選定時に注意が必要です。

②選定方法

(a)下記項目を確認します。
  1. 使用場所(屋外、屋内、装置内)
  2. 使用電圧(1次、2次電圧)の確認
  3. 相数の区別(単相、三相、単三)
  4. 負荷容量(トランス容量)の確認
(b)種類の特定

下記の項目について、性能比較を行い機種を選定します。

  1. 1次、2次間の遮蔽板数この枚数が多い程、雷サージに対する抑制効果も高くなるので、多い物を選定
  2. サージ減衰量1/1000以上
  3. 雷インパルス絶縁強度30kV以上が望ましい
  4. 電圧変動率少ないもの
  5. 効率高いもの